便が出にくい!便秘?膀胱直腸障害のサインかも!

膀胱直腸障害とは?排泄に悩む方へ知ってほしい病態と対処法
院長監修記事

梅林 猛
東京脊椎クリニック院長/日本脳神経外科学会専門医/日本脊髄学会指導医
医療法人メディカルフロ ンティアでは脊椎手術に特化した医療施設(東京脊椎クリニック)を運営しています。
その施設の責任者である梅林猛医師監修の下、脊椎疾患や手術術式についても寄稿していきます。
日常生活において、排尿や排便の機能は当たり前のように感じられるかもしれません。しかし、これらの排泄機能は非常に精密な神経のネットワークによってコントロールされており、ちょっとした異常が生活の質を大きく損なうことがあります。
「膀胱直腸障害」は、その名の通り膀胱と直腸、つまり尿と便の排泄に関わる機能に異常をきたす状態です。今回は、膀胱直腸障害の基礎知識から原因、診断、治療法までを分かりやすく解説します。
膀胱直腸障害とは?
膀胱直腸障害(Neurogenic Bladder and Bowel Dysfunction)とは、排尿や排便を調節する神経系に障害が起こり、尿や便のコントロールができなくなる状態を指します。具体的には以下のような症状があります。
- 尿が出にくい、または頻繁に漏れる
- 排尿や排便の感覚が鈍い、あるいはまったくわからない
- 残尿感がある
- 重度の便秘または便失禁
症状は多岐にわたり、生活の質(QOL)に大きな影響を与える疾患です。
なぜ神経の問題で排尿・排便が障害されるのか
膀胱や直腸の機能は、脳、脊髄、末梢神経が密接に関わっています。
- 脳・脊髄:排泄のタイミングを司る「中枢」
- 仙髄神経:排泄器官への信号伝達を担う
- 末梢神経:筋肉の動きを直接制御
これらのいずれかが損傷すると、排尿・排便の制御ができなくなります。
膀胱直腸障害の主な原因
1. 脊髄損傷・脊椎疾患
事故や加齢による脊髄損傷、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などにより神経が圧迫されると、排泄機能に支障が出ます。
特に脊椎疾患が原因の場合緊急に脊髄の圧迫を取り除かないと症状長く続き改善しないことも多くあります。
2. 馬尾症候群
脊髄の末端「馬尾神経」が障害されることで、急速に進行する膀胱直腸障害が発生します。緊急手術が必要なケースもあります。
3. 糖尿病性神経障害
慢性の高血糖により神経が傷害され、膀胱や直腸への信号伝達がうまく行かなくなります。
4. 中枢神経疾患
多発性硬化症、パーキンソン病、脳卒中などが原因となることもあります。
主な症状
- 排尿困難、尿失禁、頻尿
- 排便困難、便秘、便失禁
- 排泄のタイミングがわからない
- 下肢のしびれ、歩行困難を伴うことも
診断方法
以下の検査で診断が行われます。
- MRI:脊髄の損傷や腫瘍の有無を確認
- 残尿量の測定(エコー)
- ウロダイナミクス検査:排尿機能の評価
- 神経伝導検査
原因となる病気が判明した場合は、その治療が優先されます。
治療方法
1. 原因疾患の治療
脊髄疾患に対する手術や、糖尿病のコントロールが中心です。
2. 排尿障害への対応
- 自己導尿の指導
- 膀胱収縮を調整する薬物療法
- 骨盤底筋のリハビリ
3. 排便障害への対応
- 便通改善薬、食事指導
- 失禁対策(便失禁パッドなど)
- 理学療法や電気刺激療法
生活上の工夫と支援制度
- 定時排尿・排便:生活にリズムをつける
- 水分・食事管理:刺激物を避ける
- 排泄記録の活用:アプリやノートで管理
- 障害者手帳の取得や福祉制度の活用
では脊椎疾患が主な原因の場合について解説します。
「トイレが間に合わない」「排尿・排便に違和感がある」…その不調、実は脊椎の病気が原因かもしれません。膀胱直腸障害は、脳や脊髄、神経の異常によって起こることがありますが、脊椎疾患に伴うケースは見逃されがちです。脊椎疾患が原因で生じる膀胱直腸障害の治療法について、医療の観点からわかりやすく解説します。
脊椎疾患における膀胱直腸障害の症状とは?
膀胱直腸障害とは、排尿・排便の機能に障害が起きる状態を指します。典型的には以下の症状が見られます。
- 頻尿または尿閉(尿が出ない)
- 便秘や失禁
- 尿意や便意を感じにくい
- 排尿・排便後の残存感
これらの症状が出た場合、「泌尿器や消化器の問題」と考えがちですが、実は脊髄や神経の障害が隠れているケースもあります。
原因としての脊椎疾患とは?
膀胱直腸障害を引き起こす脊椎疾患には以下のようなものがあります。
1. 腰椎椎間板ヘルニア
椎間板が突出し、馬尾神経を圧迫することで、排尿・排便に関わる神経の障害が生じます。
2. 脊柱管狭窄症
加齢などにより、脊髄の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経圧迫によって膀胱直腸機能に異常が出ます。
3. 馬尾症候群
腰椎の下部にある「馬尾神経」が障害され、急速な膀胱直腸機能低下や会陰部の感覚障害を伴う緊急疾患です。
4. 脊髄腫瘍や外傷
腫瘍による圧迫や交通事故・転倒などによる脊髄損傷でも同様の障害が生じます。
治療の基本方針
膀胱直腸障害が脊椎由来である場合、その原因疾患を特定し、根本治療を行うことが最優先です。以下に代表的な治療法を紹介します。
1. 保存的治療(初期症状・軽症の場合)
● 安静・薬物治療
神経への炎症を抑える目的で、NSAIDsや神経障害性疼痛治療薬(プレガバリンなど)を使用します。
● 理学療法
リハビリテーションや牽引療法で脊椎の可動域を改善し、神経圧迫の軽減を図ります。
2. 手術治療(中等度以上・進行例)
● ヘルニア摘出術
腰椎椎間板ヘルニアの場合、飛び出た椎間板を取り除く手術で神経への圧迫を除去します。
*東京脊椎クリニックでは緊急の場合でも低侵襲で行うことができる脊椎内視鏡手術を用いて手術を行います。
● 脊柱管拡大術
脊柱管狭窄症では、骨や靭帯の一部を削り、神経の通り道を広げることで排尿・排便機能の回復を期待します。
● 腫瘍摘出や固定術
脊髄腫瘍が原因の場合には、腫瘍の摘出や脊椎の安定化を目的とした手術が行われます。
3. 尿・便に対する対症療法
● カテーテル管理
排尿障害が強い場合は、自己導尿やバルーンカテーテルの使用が必要になることがあります。
● 下剤や浣腸
便秘への対応として、刺激性下剤や浣腸、食物繊維の調整を行い、排便リズムの維持を図ります。
● 電気刺激療法
仙骨神経刺激療法(SNS)など、神経に微弱な電気を流して排尿・排便機能を調整する先進的治療も一部で行われています。
4. 緊急対応が必要なケースとは?
以下のような症状がある場合は、馬尾症候群が疑われ、緊急手術が必要です。
- 排尿・排便が急にできなくなった
- 会陰部のしびれ(サドル麻痺)
- 両下肢の急激な運動麻痺や感覚障害
数時間〜48時間以内に治療を開始することで、後遺症を最小限に抑えることが可能です。自己判断せず、すぐに医療機関を受診してください。
早期診断と神経保護が鍵!
膀胱直腸障害が現れたとき、「年のせい」「便秘体質」などと自己判断しがちですが、背後に重篤な脊椎疾患が隠れている可能性もあるのです。違和感を覚えたら、早めに整形外科・脳神経外科・泌尿器科などの専門医を受診しましょう。
脊椎疾患に伴う膀胱直腸障害は、早期発見・早期治療が非常に重要です。体の声に耳を傾け、大切な神経を守る一歩を踏み出してください。
まとめ:早期発見がカギ
膀胱直腸障害は、早期に対応することでQOLの改善が可能です。「なんとなくおかしい」「恥ずかしい」と思って放置してしまう前に、ぜひ専門医にご相談ください。
脊椎専門の医療機関・泌尿器科・神経内科・整形外科など、症状に応じた診療科を受診することが重要です。
東京脊椎クリニックではこのような便が出にくい、といった症状で来院され緊急に手術を行うことが多数あり、緊急の場合でも低侵襲で行うことができる脊椎内視鏡手術をいつでも施行できる態勢を整えています。
参考資料
- 日本泌尿器科学会「排尿障害診療ガイドライン」
- 日本神経学会「神経因性膀胱に対するアプローチ」
- 難病情報センター(厚生労働省)
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