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重症の睡眠時無呼吸症候とは

今回は重症(AHI 30以上)に分類される睡眠時無呼吸症候群の解説になります。

重症までなると即座に治療を開始する必要があり、治療法も限られてきます。

息をしていない夜 ― 眠りのはずが“呼吸の断絶”に

息をしていない夜 ― 眠りのはずが“呼吸の断絶”に
「寝ているのに疲れがとれない」「家族に『呼吸が止まっていた』と何度も言われる」
「寝ているはずなのに日中が地獄のように感じる」──これらは、**重症の睡眠時無呼吸症候群**に見られ典型的な訴えです。
AHI(無呼吸・低呼吸指数)30以上、つまり1時間あたり30回以上も呼吸が止まる状態は、睡眠が「休息」ではなく
「生命活動の危機」へと転じていることを意味します。
重症とはどのような状態か?

AHIが30は、ほぼ2分に1回以上、10秒以上の無呼吸が発生していることに相当します。
仮に8時間眠っていた場合、240回以上も呼吸が止まっている計算になります。
この状態では、睡眠の構造は著しく破綻し、ノンレム睡眠・レム睡眠のリズムも崩壊。
深い睡眠に到達することができず、身体と脳の修復がほとんど行われないまま朝を迎えることになります。

自覚症状 ― 日中を機能できないレベルに

重症のSASでは、症状が日常生活に大きな影響を及ぼします。

① 強い日中の眠気と覚醒維持困難

睡眠中に何十回も呼吸が止まることで、深い睡眠(ノンレム第3〜4段階やレム睡眠)が著しく減少します。
結果として、どれだけ長時間寝ても脳と身体が休まらず、以下のような症状が現れます。

  • 会議中や運転中に突然眠り込む(マイクロスリープ)

  • 会話中に意識が飛ぶ

  • 作業効率や判断力の極端な低下

  • 短時間で集中力が途切れる

この「強い眠気」は**エプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale)**で高スコア(例:16点以上)となることが多く、日中活動がほとんど機能しないレベルです。


② 起床時の頭痛・喉の乾燥・強い倦怠感

睡眠中の低酸素状態が長時間続くことで、脳血管が拡張し、起床時に鈍痛や拍動性頭痛を感じることがあります。
また、口呼吸による咽頭粘膜の乾燥、酸素不足による強い疲労感や「寝ても疲れが取れない」状態が典型です。


③ 精神・神経機能への影響

慢性的な酸素不足と睡眠分断は、自律神経・神経伝達物質のバランスを崩し、以下のような精神症状が現れます。

  • 抑うつ気分、意欲低下、感情の不安定化

  • 短期記憶障害、集中困難、判断力の低下

  • 性格の変化(怒りっぽい、無気力など)

これらはしばしば「うつ病」「認知症の初期症状」と誤診されることがあります。


④ 社会的リスクと事故の危険性

重症SASでは、交通事故・労働災害のリスクが著しく高くなります。
たとえば、研究によると:

  • SAS患者は健常者に比べて交通事故発生率が約2〜7倍

  • 居眠り運転による重大事故の多くにSASが関与

 

全身疾患への影響 ― “合併症の巣”となる睡眠

重症睡眠時無呼吸を放置した場合、全身のあらゆる臓器に悪影響が及びます。特に重要なのは以下の疾患との関連性です。

1. 高血圧と心不全
無呼吸によって血中酸素濃度が何度も低下し、それに伴い交感神経が過剰に興奮。睡眠中でも血圧が高く保たれるため、
夜間高血圧、そして日中の高血圧につながります。
また、心臓は無酸素状態にさらされ続け、心拍数の変動、心室肥大、不整脈、心不全など、致死的合併症へとつながり得ます。

2. 脳卒中・認知症リスクの増加
無呼吸による脳の低酸素状態は、脳血管障害のリスクを大幅に上昇させます。
血管が脆くなり、動脈硬化が進行、脳出血や脳梗塞の発症率が高まります。
また、近年の研究では、慢性的な無呼吸と認知症の関連性も指摘されており、アルツハイマー型認知症の
リスクファクターの一つとして注目されています。

3. 糖尿病と代謝異常
睡眠の質が悪化すると、インスリン抵抗性が増加し、血糖コントロールが難しくなります。
実際、SAS患者では2型糖尿病の罹患率が有意に高く、肥満とSAS、糖尿病が三位一体で悪循環を形成していることが
知られています。

治療は「緊急措置」であり「継続的支援」

症SASは、命にかかわる疾患であると同時に、緊急性の高い慢性疾患です。睡眠中の無呼吸を放置することで、
突然死に至る例も報告されています。

重症と診断された睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者に対しては、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸)
療法が最優先で推奨されます。適切に導入・継続されれば、AHIの即時的な正常化(10以下)、日中の眠気・倦怠感の消失、
血圧・糖代謝の改善、心血管疾患リスクの著明な低下が期待できます。
臨床研究では、心筋梗塞や脳卒中の発症率を30〜40%程度低下させたとの報告もあります。

継続が命を守るカギ

CPAPの使用は**「継続」が何よりも重要**です。一晩でも中断すれば、無呼吸状態は再発します。
慣れるまで時間がかかる患者もいますが、医師や技師との連携により、機器の調整・マスクの種類変更・加湿機能などで
解決できることがほとんどです。

重症の睡眠時無呼吸症候群は、もはや「疲れやすい」「いびきがうるさい」といったレベルの話ではありません。
それは、生命の危機を知らせる赤信号です。
この段階で適切な治療に踏み出せるかどうかで、今後の10年、20年の健康寿命が決まるといっても過言ではありません。
重症と診断された今こそ、本気で自分の身体と向き合うタイミングです。
医師のサポートのもと、必ず改善できる病態です。
諦めずに、今日から一歩を踏み出しましょう。