胸椎黄色靭帯骨化症とは(原因・症状・診断検査・予防・治療法など)
医療法人メディカルフロンティアでは脊椎手術に特化した東京脊椎クリニックを運営しています。施設責任者である梅林猛医師監修の下、脊椎疾患や手術術式についても寄稿していきます。
梅林 猛
東京脊椎クリニック院長
日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄学会指導医
さて今回は第8回目「胸椎黄色靭帯骨化症」についてです。
2014年に故星野仙一監督が罹患したことでも有名な疾患です。腰椎椎間板ヘルニアも併発していた事から歩行困難となり相当病状が進んでいたものと推察されます。
黄色靱帯骨化症(OLF)は国から指定難病されています(指定難病68)
指定難病とは
難病は治療方法が確立しておらず、長期の療養を必要とすることで大きな経済的負担を強います。
国が「難病の患者に対する医療等に関する法律」に定められる基準に基づいて医療費助成制度の対象としている難病を「指定難病」と呼びます。
医療費助成制度が受けられますので詳しくは難病情報センターホームページをご覧ください
さて胸椎黄色靭帯骨化症ですが、前々回解説しました頸椎後縦靭帯骨化症と病態は同じですが骨化する靭帯の部位が異なります(下図参照)
黄色靭帯の骨化は胸椎に多いです。(後縦靭帯骨化症と合併する場合も多い)
後縦靭帯骨化症における骨化する後縦靭帯は脊髄の前方に位置ています。詳しくは頸椎後縦靭帯骨化症を参照してください
胸部の脊髄を入れている脊柱管は12個の胸椎という骨から成り立っており、これらは幾つかの靱帯組織により連結されています。
これらの靱帯のなかで、脊髄の背側にあって胸椎を縦につないでいるものが黄色靱帯と呼ばれる靱帯です。
胸椎黄色靱帯骨化症は、この靱帯(黄色靱帯)が、骨に変化(骨化)し、その厚みを増して脊柱管が狭くなり脊髄を圧迫することにより、さまざまな症状をきたす疾患です。
脊柱管については過去のブログ(腰部脊柱管狭窄症)を参照してください。
この病気は欧米人に比較して明らかに私たち日本人では高頻度に発生することが知られています
原因
胸椎黄色靭帯骨化症では、なぜ骨化が起きるのかという点についてはまだ分かっていません。
これまで関連性が指摘されているものとしては、遺伝子との関連性、性ホルモンの異常、カルシウム代謝異常、糖尿病、老化、局所ストレスなど数多くの要因があります。確定はしていないものの、いくつかの関連する可能性のある要因の候補が挙がっていますが具体的な原因の特定に至っていません。
症状
胸部の脊柱管か狭くなるため下半身の症状が主になります
初発症状
下半身の脱力やこわばり、しびれまた腰背部痛や下肢痛が出現する。
痛みがない場合もある。数百メートル歩くと少し休むといった(間欠跛行)症状が出現します
進行症状
両下半身麻痺、歩行困難、尿や便が出にくいといった(膀胱直腸障害)症状が発生し日常生活に障害を来す状態になる。
症状の経過は患者さんにより様々です。
軽い「しびれ」や鈍痛で長年経過する方もおられる一方で、数ヶ月から数年の経過で歩行がかなりの程度障害される場合もあります。
歩行障害や下半身のしびれなどの症状が出現してこの病気が確認された場合には十分な経過観察が必要です。
またこの疾患は通常は柔軟な靭帯が硬くなっているため転倒などによる外傷にて脊髄損傷が多いのも特徴です
診断検査
胸椎に多い黄色靭帯骨化症は通常のX線検査では診断が困難なことが多いです。
通常のX線検査で診断が困難なときは、CT(コンピューター断層検査)やMRI(磁気共鳴撮像検査)などの精査が必要になってきます。CTは骨化の範囲や大きさを判断するのに有用で、MRIは脊髄の圧迫程度を判断するのに有用です。
予防と治療
経過が様々であること、病気の進行が正確には予測できないことから、まずは慎重な経過観察を行いながら、
いわゆる保存的療法と呼ばれる治療法を行うことを原則です。
全く無症状で偶然に発見された場合には、特に治療はせずに経過を定期的に観察することも少なくありません
外的エネルギーが加わることで脊髄損傷を起こしやすい状態になっていることから転倒や頭頚部の打撲のような胸椎に衝撃が
加わるようなケガに十分注意すること(自動車のむち打ち、自転車やバイクの転倒、飲酒後の転倒など)
保存的治療でも痛みが改善しない場合神経ブロックを行う場合があります。
さらに経過中に神経症状が進行している場合には、それ以降も悪化することが多いと考えられ、手術的療法について検討する必要があります。
保存的治療
温熱療法
患部を温めて血流を促進し、症状を和らげる
内服治療
痛みを和らげる薬(消炎鎮痛剤)、末梢血管を広げて神経の血流を増やして症状を和らげる薬(リマプロスト)
中枢神経に作用して過剰に興奮している神経を鎮める薬(プレガバリン、オピオイドなど)等で症状が改善する場合があります。
神経ブロック
保存治療で改善が見られない場合
神経根ブロック
痛みのでている神経を確実に捕らえて、そこに局所麻酔薬を打つ方法です。
硬膜外ブロック
背部痛・腰痛だけでなく、足も腰も両方痛むという人には有効な方法です。
この注射はペインクリニック外来で行います。
背中から注射する胸部硬膜外ブロックと、腰の方から入れる腰部硬膜外ブロックがあります。
どちらも長い針を神経の通っている骨の穴(脊柱管)まで入れて局所麻酔やステロイド薬を注入する方法です。
この注射をした後は、下肢に力が入らなくなるので30分くらいは休んでから帰ってもらいます。
当院でも痛みの専門外来をペインクリニック専門医が行っております。
手術療法
胸椎黄色靱帯骨化症に対する手術療法としては背中から行う胸椎後方到達法があります。
全身麻酔を行った後うつ伏せの状態で手術を行います。
背中から皮膚切開を行い顕微鏡下または内視鏡下にて椎弓を切除し、脊髄を圧迫している骨化病変を摘出します
- 顕微鏡下椎弓切除術
- 内視鏡下椎弓切除術
術後経過や合併症
手術後は、胸椎コルセットを装着する事もありますが、術翌日には起床して歩行器を用いての歩行を開始します。
数日は背部の痛みがありますが、過度の安静は薦められません。
- 入院:10-14日目程度
- 自宅療養:2週間程度
- 通院:3-12ヶ月程度
- 社会復帰:術後1-2ヶ月程度
手術合併症
頻度は合併症によって異なりますが以下の手術合併症のリスクがあります
- 硬膜損傷(髄液が漏れ出るため激しい頭痛をきたします)
- 神経損傷
- 術後血種による神経圧迫
- 創部感染
- その他のまれな合併症として深部静脈血栓症。肺炎などの感染症
胸椎黄色靭帯骨化症は国から難病指定されている疾患なだけあって治療の難易度が高い です
この病気の進み方は様々で、手術を行わない場合の正確な予測は出来ません。
軽い症状で長年経過することもあり得ますが、一方では経過中に神経症状が進行している場合には、それ以降も悪化することが多いと考えられています。また、転倒などを契機に、急激に神経症状が悪化する場合も有り得ます。
更に、軽度とは言えない神経症状が出現している場合には、この状態を放置しておくと、脊髄自体にもとに戻らない変化(いわゆる不可逆性変化)が生じてしまい、たとえ手術を受けても神経症状の回復が期待通りにならない場合も少なくありません。
そのため高い手術スキルと多くの手術経験を持つ医師と良く相談の上、治療方針を納得して決定することをお勧めします。
出典:※日本整形外科学会「後縦靱帯骨化症・黄色靱帯骨化症」※日本脊髄脊椎学会「胸椎黄色靭帯骨化症」
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