いびきの治療

いびき治療に有用な「内服治療」とは

〜薬で改善できる可能性はあるのか〜

いびきについての治療と聞くと、多くの方が「手術」や「マウスピース」、「CPAP」のような機器による治療をイメージされると思います。しかし実は、いびきの原因の中には薬によって改善が期待できるものもあります。特に肥満が睡眠中の上気道が狭くなる原因を抑える薬物療法は、比較的副作用が少なく、日常生活に取り入れやすい治療法の一つです。

本記事では、いびき治療の中で「内服薬がどこまで有効なのか」「どのような薬が使われるのか」を医学的な観点からわかりやすく解説します。

肥満治療の内服薬

以前のブログで肥満に対するマンジャロ注射について詳しく解説しました。

今回はマンジャロ以外の肥満に対する内服治療薬について解説します。

 

GLP-1受容体作動薬(マンジャロ以外)

GLP-1受容体作動薬の内服薬としては、マンジャロなどの注射が苦手な方向けにリベルサス®(有効成分:セマグルチド)という選択肢があります。セマグルチドはもともと注射製剤(例:オゼンピック®)として強い体重減少効果と血糖改善効果が確立している薬で、その有効成分を「飲み薬」で使えるようにしたのがリベルサス®です。
腸からの「食事が入ってきた」という信号(インクレチン)を増幅し、膵臓にインスリン分泌を促しつつ、脳の満腹中枢に働きかけて食欲を抑え、さらに胃の動きをゆるめて食後血糖の急上昇を緩やかにします――この仕組みは注射型GLP-1製剤と同じで、投与経路だけが異なると考えると理解しやすいでしょう。

服用方法の特徴

内服薬であるがゆえの最大のポイントは飲み方のルールです。毎朝、起床直後の空腹時に、コップ半分以下(おおむね120mL以内)の水で内服し、その後30分は飲食や他の薬を避ける必要があります。
これは成分が腸からきちんと吸収されるために不可欠な手順で、ここを守れないと薬効が十分に発揮されません。
忙しい朝には少し手間に感じられるかもしれませんが、リベルサス®特有の性質であり、効果を引き出す鍵になります。

効果は

効果の面では、内服でありながら平均5~10%程度の体重減少が現実的な目標になり、HbA1cなどの血糖指標も改善が
見込めます。注射のマンジャロに比べると減量効果はやや控えめですが、「注射なしでここまで」という実利は大く、
生活に取り入れやすい人には十分な選択肢になります。
心血管リスクの低下など全身的なベネフィットが示唆されている点も、単なる“ダイエット薬”に留まらない価値といえます。

副作用は

副作用は注射型と似ており、吐き気、胃もたれ、下痢や便秘、食欲低下などの消化器症状が初期に出やすいのが特徴です。
多くは用量を段階的に増やすことや、食事量・脂質の調整で慣れていきますが、強い腹痛が持続する場合は膵炎や胆道系のトラブルを除外するため速やかに受診してください。低血糖は単剤では起こりにくい一方、インスリンやスルホニル尿素薬との併用では注意が必要です。
妊娠・授乳中は使用できず、膵炎の既往がある方は慎重な適応判断が求められます。

SGLT2阻害薬(ジャディアンス、フォシーガ、ルセフィ など)

SGLT2阻害薬は、腎臓の「ブドウ糖を血液に戻すポンプ」にフタをして、余分な糖を尿として出しやすくする薬です。
体は糖と一緒にカロリーも失うため、食事量を急に変えなくても徐々に体重が落ちやすくなります。
平均すると数か月で2〜3kg程度の減量が期待値で、血糖を下げる力に加えて、心不全の悪化を抑える、腎臓を守るといった全身の保護効果が特徴的です。いわゆる“劇的なダイエット薬”ではありませんが、2型糖尿病やメタボを伴う肥満の方には、体重と循環器・腎のリスクを同時に下げられる堅実な選択肢になります。
いびきや睡眠時無呼吸(SAS)との関係で言えば、体重が少しでも落ちると首回りや舌の付け根まわりの脂肪が減り、
気道の余裕が出ていびきが軽くなる例があります。
体重減の“幅”はGLP-1系に劣るものの、心腎の予後改善という強い後押しがあるため、安全志向で長く続けたい方に
向きます。
注意点として、尿に糖が出るため**尿路・性器の感染症(とくにカンジダ)が増えやすく、脱水や低血圧にも配慮が必要です。極端な糖質制限や食事が取れない状況、手術前後ではケトアシドーシス(血糖がそれほど高くなくても起こり得るタイプ)**に注意します。腎機能により使い方が変わるため、主治医の管理下で導入・継続するのが安全です。

食欲抑制薬(サノレックス=マジンドール)

マンジャロが流行る前に食欲を抑える薬として人気だったのがこのサノレックスです。マジンドールは中枢神経に働きかけて食欲を強く抑える薬です。食事量が目に見えて減るため、短期間で体重を落としたい局面で用いられますが、
日本では原則として短期(3か月以内)の処方に限られ、医師による厳格な管理が前提です。
副作用として不眠、動悸、口渇、便秘、気分の変化などが出やすく、依存性の懸念もあるため、心疾患、重い高血圧、甲状腺機能亢進、緑内障、MAO阻害薬併用などは禁忌・慎重投与にあたります。
やや気分が落ちるといった抑うつ症状もしばし見られていた印象があります。

オルリスタット(脂肪吸収阻害薬)

オルリスタットは腸のリパーゼ(脂肪を分解する酵素)をブロックし、食事で摂った脂肪の吸収そのものを減らす薬です。
摂取カロリーが下がるため体重はゆるやかに低下します。
海外では肥満治療薬として承認されていますが、日本では未承認で、利用する場合は個人輸入などの自費扱いが基本です。
作用が「食事中の脂肪」に限られるため、低脂肪食と組み合わせて長く使うほど整った効果が出やすく、
**脂溶性ビタミン(A D E K)**の吸収が落ちる点には注意が必要です。
デメリットは脂肪便(油っぽい下痢、便失禁、腹部不快)といった消化器症状が起こりやすいこと。
食事の脂質が多いほど副作用も強く出るため、「薬で阻む」のではなく「脂質を減らす」食習慣とセットで考えると
使いやすくなります。
薬物相互作用(シクロスポリン、ワルファリンなど)にも配慮が必要で、サプリメントを含む併用は医師・薬剤師に
必ず共有しましょう。
体重が緩やかに減れば、いびきやSASにはじわっと良い影響が期待できますが、効果の立ち上がりは穏やかです。

 

肥満に対する内服治療まとめ

いびきやSASに対しては、短期的に体重を減らして症状を軽くする“橋渡し”として肥満治療に効果のある内服薬が使われることがあります。ただし、薬で食欲を抑えても、終了後に生活が元に戻ればリバウンドのリスクが高まります。
したがって、使うなら期間と目標を最初に決め、終了後はGLP-1系やSGLT2、栄養指導、運動、夜の飲酒コントロールなどへスムーズにバトンタッチしていく設計が重要です。いびきの観点でも、短期の静寂より長期の安定をゴールに据えるのが失敗しにくい考え方です。

「誰に向くか」を実務的にまとめると、注射には抵抗があるが、毎朝の服薬ルーチンは継続できる人、そして飲み方の
ルールを守れる人に適しています。
目標体重の落とし幅を大きく取りたい、あるいは服薬ルールの遵守が難しい場合は、注射製剤(週1回)の方が合うこともあります。いびきや睡眠時無呼吸との関係では、肥満が主因となっているケースで減量そのものが治療につながります。
首周りや舌根、咽頭周囲の脂肪が減ると気道の余裕が生まれ、いびきや無呼吸が軽くなる可能性が高まります。
のどの粘膜のたるみや振動しやすさが目立つ場合には、Deep Dual Thermiaのような局所レーザー治療を併用し、「重さ」を薬で引き算しつつ「構造」を内側から整える二方向のアプローチにすると、現実的で満足度の高い改善に近づきます。