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いびきの手術療法について
これまで様々ないびき治療(CAPA、ダイエット、テープやマウスピース舌トレーニング等)について解説してきました。しかしこれらは対症療法に近く根本的治療にはなりません。いびき治療の根本治療は手術療法とレーザー治療(次回以降解説)以外にはありません。今回は手術治療について詳しく解説します。
1. 手術療法とは
私も麻酔科医としていびき治療の手術の全身麻酔を担当したことがあります。
手術全般に言えることですが当然手術は最も侵襲度(身体へのダメージ)が大きい治療となります。
当然入院とある程度の期間(切除した場合の縫合糸を抜糸するまで)が必要です。
手術療法は、構造的に狭くなった気道を広げることで、いびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)を改善・根治することを
目的とした治療方法です。
多くは、耳鼻咽喉科または口腔外科で行われ、いびきの原因となる特定の部位(軟口蓋、舌根、鼻腔など)に対して
外科的処置を施します。
手術の適応は、重症度、解剖学的構造、患者の希望、他の治療(CPAPや口腔内装置)との相性・効果などを総合的に判断して決定されます。
2. 主な手術の種類
以下は、いびき・SASに対して行われる代表的な手術の種類です。

(1) 軟口蓋形成術(UPPP:Uvulopalatopharyngoplasty)
いびきや無呼吸の多くは、寝ている間に空気の通り道(気道)が狭くなることが原因です
特に、「軟口蓋」というのは、舌の奥側、のどの天井にあるやわらかい部分で、寝ている間にこの部分が垂れ下がり、空気の流れを邪魔してしまいます。
すると、空気が通るたびにこの部分がブルブルと振動して「いびき」となり、ひどい場合は**空気が通らなくなって
「無呼吸」**になります。
その空気の通り道である気道を広げるため、のどの奥にある「軟口蓋(なんこうがい)」「口蓋垂(のどちんこ)」
「咽頭(いんとう)」の一部を切除・形成して、気道を広げる手術です。
手術は、全身麻酔で行われ、入院が必要です。多くの場合、1時間程度で終了し、入院期間は3~7日ほどです。
術後1週間ほどは、のどの痛みが強く、飲食に注意が必要ですが、徐々に回復します。
声の出方や飲み込みに違和感を感じることもありますが、通常は時間とともに改善します。
またのどちんこがなくなってしまうといった心理的に欠損した気分になることもあり、劇的な改善効果が得られない場合もあります。
軟口蓋形成術(UPPP)は、いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因となる「のどの奥の狭さ」を解消するための根本的なアプローチです。CPAPなどの保存的治療が難しい場合や、構造的な問題が明らかにある場合には、外科的治療として
強力な選択肢となり得ます。
(2) 口蓋垂懸垂術(UPF:Uvulopalatoplasty)
「のどちんこ」とも呼ばれる口蓋垂(こうがいすい)を糸で吊り上げたり切除したりすることで、
いびきを改善する手術です。
局所麻酔で施行可能な点が大きな利点で所要時間は20~40分程度で、術後は比較的軽度の、のどの痛みがありますが、通常は1週間以内に改善します。
主にいびき対策として行われる簡易手術になります。
有効とされるのは、次のような方々です。
いびきが主訴だが、無呼吸の重症度は低い
のどちんこが長く垂れ下がっており、振動が強いと診断された
低侵襲な方法を希望し入院せずに済む治療を選びたい
CPAP療法の前にまず試したい対処法を求めている
特に、無呼吸がそれほど強くないものの、いびきの音量や頻度がパートナーにとって耐え難いというケースでは、第一選択となることもあります。
音の軽減に有効だが、SAS改善効果は限定的です。
(3) 舌根減量術(舌部分切除術)
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)や重度のいびきの治療として用いられる外科的手法のひとつであり、舌の付け根(舌根部)が空気の通り道を物理的にふさいでいる場合に効果を発揮します。
とくに、CPAPが合わない人や、他の部位の手術(口蓋垂や軟口蓋)で効果が得られなかった人に対して検討されることが多いです。
全身麻酔下で行われるのが一般的です。口腔内からアプローチするため、外からは傷跡が見えないのも利点のひとつです。
いびきの原因として舌が大きい場合が比較的多いです。しかし舌の大きいだけでいびきが発生しているとは考えにくく軟口蓋や口蓋垂といった部分が狭いことで複合的な要因で発生している場合が多く単に舌が小さくしただけでは改善しない場合が多いです。
軟口蓋形成術など併用する場合が多いようです。
(4) 舌骨懸垂術(hyoid suspension)
「舌骨(hyoid bone)」とは、のどの最も上部に位置するU字型の小さな骨で、顎の下、首の付け根付近に存在します。
この舌骨には、舌を動かす筋肉や喉の筋肉、喉頭(声帯を含む部分)といった複数の構造が連結しており、上気道(空気の通り道)を保持する重要な役割を担っています。
通常、睡眠時に筋肉の緊張が緩むと、この舌骨やその周囲の筋肉が下がってしまい、気道が狭くなっていびきや無呼吸が
起こります。舌骨懸垂術は、この舌骨を前方あるいは下顎の骨に向かって固定することで、舌の根元や喉の奥が気道を
塞がないようにし、上気道を物理的に広げる手術です。
舌根部および下咽頭での閉塞が中心的な無呼吸に対して、比較的侵襲が少なく、かつ構造的に確実な改善が期待できる
外科的治療法です。
単独での実施も可能ですが、多くの場合は他の部位との複合手術としての位置づけで用いられ、全体としての呼吸機能の
改善を目指します。
(5) 鼻中隔矯正術・下鼻甲介粘膜切除術
鼻中隔とは、左右の鼻腔を隔てる軟骨と骨からなる仕切りのことです。これが曲がっている状態(鼻中隔弯曲症)は、日本人を含む東洋人では非常に多く、実に人口の80%以上に程度の差はあれ存在するといわれています。
通常は無症状で問題となることはありませんが、大きく湾曲して片側または両側の鼻腔が狭くなると、呼吸に支障をきたすようになります。
特に就寝時の口呼吸やいびき、無呼吸の原因となることも少なくありません。
鼻中隔の湾曲を矯正し、空気の通りをよくする。必要に応じて肥厚した下鼻甲介(鼻の中のヒダ)も縮小。
鼻中隔矯正術は、この湾曲した鼻中隔をまっすぐに整え、鼻の通りを良くすることを目的とした手術です。
鼻詰まりによる口呼吸を改善することで、いびきや睡眠障害の軽減にもつながります。
全身麻酔または局所麻酔で行われ、鼻の中から切開し内視鏡を用いて行うため、顔に傷跡は残りません。
湾曲している軟骨や骨を切除・修正し、まっすぐな形に整えてから再配置します。
手術時間は30〜60分程度で、入院は1泊から2泊が一般的です。
下鼻甲介は、鼻腔内の外側にある突起状の粘膜で、吸い込む空気の加湿や加温、異物除去の役割を担っている
重要な構造です。ただし、この部分の粘膜が過剰に肥大すると、鼻腔のスペースが狭くなり、慢性的な鼻づまりの原因になります。
特にアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎などがある場合、下鼻甲介の肥大が著しく、薬物療法では改善しにくいケースもあります。
この手術では、肥大した下鼻甲介の粘膜および一部組織を切除または焼灼することで、鼻腔の通気性を改善します。
特に、CPAP療法を導入しても鼻詰まりのためにマスクが使えない患者にとって、非常に有効な手術です。
鼻中隔矯正術と同様に、鼻の内側から操作する内視鏡手術が一般的です。
3. 手術療法のメリットとデメリット
| 項目 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 効果 | 構造的な原因を根本から治療できる | 個人差が大きく、完治しないこともある |
| 継続性 | 治療後は器具装着や機器管理が不要 | 再発や他部位の閉塞が出現することも |
| 快適性 | CPAPなどに比べ、就寝時の負担が軽減 | 術後に疼痛・嚥下困難・違和感を伴う場合あり |
| コスト | 長期的には医療費を抑えられる可能性 | 初期費用が高額で保険適用外の手術もある |
手術は万能ではなく、患者の病態に応じた適切な選択が必要です。中には複数の術式を組み合わせる
「多部位手術」が適するケースもあり、専門医のもとで十分な診察を受ける事が重要です。