アセリオとドパミンはなぜ間違えやすいのか 報道を受けて、麻酔科医の立場から考える「バッグ製剤の落とし穴」

こんにちは上野いびきクリニックの菅谷です今回はYahooニュース等で以下報道がありました
「薬剤の誤投与で90代男性が死亡…点滴で鎮痛剤「アセリオ」と強心薬「ドパミン」を取り違え_市立千歳市民病院が陳謝」
Yahooニュース
今回は医療従事者として、またこのアセリオ・ドパミンを日頃から使用している麻酔科医としての視点から解説します。


フジテレビ Live News イット!・FNNプライムオンライン掲載
フジテレビ「Live News イット!」にて取材を受けました・FNNプライムオンラインで紹介されました
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院長監修記事
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上野いびきクリニック院長菅谷和之

菅谷 和之

上野いびきクリニック 院長/麻酔科医

2万症例以上の全身麻酔経験を有する院長がいびき・睡眠時無呼吸の診療を中心に、患者様一人ひとりに合わせた治療を提供しています。【保険診療】上野いびきクリニック

本記事は院長 菅谷和之の監修のもと、いびき・睡眠時無呼吸症候群(SAS)などに関する検査・治療など正しい医療情報をわかりやすく解説しています。

 

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医療事故の報道に触れるたび、医療者として胸が痛みます。
今回、報じられたのは「アセリオを投与するはずが、誤ってドパミンを投与してしまった」という重大な薬剤誤投与事例でした。報道によれば、病棟で90代の患者さんに鎮痛薬アセリオを点滴投与する予定だったところ、強心薬ドパミンが投与され、その後救命措置が行われたものの死亡が確認されたとされています。病院は、薬剤名を十分確認しないまま取り出したこと、さらに本来行うべきダブルチェックも機能しなかったことを公表しています。

このニュースに対して、医療者でない方は
「アセリオとドパミンなんて、全然違う薬なのに、どうして間違えるのか」
と感じるかもしれません。

ですが、現場感覚で言えば、薬の作用が違うことと、実際の投与直前に取り違えやすいことは、まったく別問題です。
むしろ医療安全の現場では、「効能が違うから間違えないはず」という思い込みの方が危険です。

私は麻酔科医として、手術室、回復室、ICU、病棟といった場所で多くの注射薬・点滴薬を扱ってきました。その立場から今回の件を考えると、報道された内容は単なる確認ミスの一言では片づけられません。
背景には、バッグ製剤の見た目の類似、夜間帯の認知負荷、思い込み、保管方法、そして形式化したダブルチェックといった、医療現場で繰り返し問題になってきた要素が重なっている可能性があります。

↓↓↓動画でも詳しく解説しています。宜しければご覧ください。

アセリオとドパミンは「薬理」は全く違う

まず大前提として、アセリオとドパミンは薬としての役割が全く異なります。

アセリオ静注液1000mgバッグは、アセトアミノフェンを成分とする静注用の解熱鎮痛薬で、100mLバッグ製剤です。つまり痛み止めです。様々な疾患の疼痛や術後の鎮痛に対して使用します。

一方、ドパミン塩酸塩点滴静注液バッグ製剤は急性循環不全などで用いられる昇圧・循環作動薬で、200mLバッグ製剤などがあります。簡単にいうと血圧を上げる薬になります。

つまり、目的や使用方法はまるで違います。
片方は痛みや発熱に対する鎮痛解熱、もう片方は血圧や循環の維持に関わる薬です。

上野いびきクリニックでは、保険診療による睡眠検査・CPAP管理、自費診療によるいびきレーザー治療など、状態に応じた選択肢をご案内しています。ご自身に合う治療を確認したい方は、まずは初診でご相談ください。
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使い方や作用の違い

アセリオ

まず我々も頻繁に使用するアセリオでが術後の鎮痛に用いられます。

使用方法は点滴で15分程度かけて投与します。これは15分程度で血中濃度が上がってくるためです。

つまり早すぎても遅すぎてもダメということになります。作用は皆さんがよく使われるカロナールなんかの解熱剤に入っているアセトアミノフェンという成分が中枢神経に作用して血管を広げ熱を放散して解熱や鎮痛効果を出すものになります。要点は1袋100ml入りなんですがこれを15分かけて投与するという事になります。(ラベルにも15分かけて投与と書いてありますね)

ドパミン

誤投与されたドパミン

これも比較的麻酔中やICUなんかで頻繁に用いられる代表的な昇圧剤(血圧を上げる薬)です。

作用は心臓の動きを強くしたり、血管を締めて血圧を上げたりするのに使用しますが細かい機序は割愛します。

今回問題となったのはその投与方法です。この薬はアセリオとちがいかなりゆっくり投与します。具体的には1時間に3ml~10mlとかなり少ない量で投与します。基本的には点滴で落とすことはなくシリンジポンプという精密に投与量を調整する機械を用いて投与します。

シリンジポンプで精密に投与します

それが今回の事故はおそらく15分で100ml以上投与したと考えられますので、40倍以上の速さで投与してしまったことのなります。これは憶測ですが、この速さで投与してしますと心臓がもたないと思われます。

それでも、現場では取り違えが起こりうる

なぜか?
答えは単純で、人は薬理作用を見て薬を取るのではなく、保管庫の中の「物」を見て取るからです。
現場で間違えるのは「薬効」ではなく「見た目」と「流れ」

医療現場の薬剤エラーは、知識不足だけで起こるわけではありません。
経験豊富なスタッフでも、条件が重なると起こります。

その典型が、バッグ製剤の取り違えです。

医療安全関連資料でも、外観が類似した薬剤の取り違えは繰り返し報告されています。日本医療機能評価機構の医療安全情報では、アセリオと他のバッグ製剤との取り違え事例が示されており、PMDA関連資料でも、アセリオと形状が似た薬剤バッグを思い込みで使用してしまった事例が記載されています。

ここで重要なのは、誤りは投与直前の一瞬で起きるということです。

たとえば病棟で患者さんが痛みを訴えた。
看護師は「アセリオを持っていこう」と思う。
保管庫を開ける。
似たサイズ・似た形のバッグが並んでいる。
「これだろう」と手に取る。
しかも頭の中ではすでに「アセリオを持っているつもり」になっている。
この時点で、視覚情報は脳内の先入観に引っ張られやすくなります。

人間は、見たものをそのまま認識しているのではなく、見たいものとして解釈していることが少なくありません。
これが、医療安全でいう「思い込み」の怖さです。

麻酔科医の感覚では「バッグは意外と似る」

誤投与された鎮痛剤アセリオ

誤投与されたドパミン

一般の方には意外かもしれませんが、点滴バッグ製剤は驚くほど「雰囲気」が似ています。
透明の液体、柔らかいバッグ、吊るして使う形、白地ベースのラベル。
細部をしっかり読めば違うのですが、忙しい現場では「一目で絶対に違う」と言い切れない組み合わせが実際にあります。

しかも、麻酔科や集中治療、病棟の現場では、薬剤は

  • 予定通りの流れで使う薬
  • 緊急時にすぐ使う薬
  • 頻回に使う薬
  • たまにしか使わない薬

が混在しています。

このとき危険なのは、「よく使う薬の見た目」として雑に覚えてしまうことです。
「この棚のこの辺にある透明バッグはこれ」
「この時間帯に使うのはだいたいこれ」
という運用記憶が強くなると、ラベルの文字を毎回新鮮な目で読む習慣が崩れやすい。

麻酔科医は、昇圧薬・鎮静薬・鎮痛薬・筋弛緩薬など、取り違えた時のダメージが大きい薬を日常的に扱います。そのため、本来は薬剤名を見る、濃度を見る、用途を確認する、ルートを確認するという多層の確認が必要です。
それでも事故は起こる。
だからこそ「個人の注意不足」で終わらせず、環境側を変えないといけません。

なぜ夜間・早朝は事故が起こりやすいのか

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報道では、誤投与は午前4時30分ごろに起きたとされています。
この時間帯は、医療安全上かなり要注意です。

早朝は、

  • 生体リズム上、注意力が落ちやすい
  • 人員が日中より少ない
  • 周囲に即相談しにくい
  • 「静かに回さなければ」という心理が働く
  • 痛みや急変対応で判断を急ぎやすい

といった条件がそろいます。

つまり、一人の確認行動に依存しやすい時間帯なのです。
そして、こういう時間帯ほどダブルチェックが“形だけ”になりやすい。

本来のダブルチェックは、1人目の確認をなぞるものではなく、別の目・別の頭で独立に確認することに意味があります。ところが現実には、忙しい現場では

「アセリオですよね」
「はい」

で終わってしまうことがあります。

これでは、最初の思い込みがそのまま2人目に伝播します。
報道でもダブルチェックが機能しなかったことが示されており、これは非常に重いポイントです。

「確認不足」だけでは再発は防げない

事故報道のあとに、しばしば
「確認を徹底します」
という再発防止策が出ます。
もちろん確認は必要です。
しかし、医療安全の世界では、それだけでは不十分です。

なぜなら、人は必ずミスをするからです。
だから再発防止は、
「ミスしないように頑張る」
ではなく、
「ミスしても重大事故になりにくい仕組みにする」
方向で考えないといけません。

今回のような事例から考えるべき対策は、少なくとも次の層があります。

1. 物理的に近くに置かない

アセリオと循環作動薬のように、用途も危険度も違う薬を近接配置しない。
保管庫の中で“取り違え候補”を作らないことが最優先です。

2. 高リスク薬は見た目で差をつける

昇圧薬、強心薬、麻薬、筋弛緩薬などは、ラベル色や保管場所、補助表示で目立たせる。
製品ラベルだけに頼るのではなく、院内運用で差をつける必要があります。

3. ダブルチェックを「復唱型」から「独立照合型」へ

「これですよね?」ではなく、
それぞれが指示票・薬剤ラベル・患者情報を独立に照合する。
同じ誤認を2人で共有しては意味がありません。

4. バーコード照合や電子認証の活用

人の目だけでは限界があります。
患者認証と薬剤認証を機械的に結びつける仕組みは、特に夜間ほど効果を発揮します。

5. 夜間帯の高リスク業務を見直す

少人数帯での高リスク薬投与には、確認フローを日中と変える、あるいは高リスク薬の配置そのものを絞るという考え方も必要です。

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麻酔科医として強く言いたいこと

私は麻酔科医として、今回の件を「特殊な事故」とは思いません。
もちろん結果は極めて重大で、決してあってはならないことです。
しかし構造としては、どの病院でも起こりうる類型の事故です。

だからこそ、私たち医療者が学ぶべき教訓は明確です。
「そんな薬を間違えるはずがない」
ではなく、
「人はバッグを見間違える。思い込む。だから仕組みで止める」
という前提に立たなければなりません。

アセリオとドパミンは薬理学的には全く違う。
ですが、現場での取り違えは薬理の違いでは防げません。
防げるのは、

  • 保管の設計
  • ラベルの設計
  • 照合の設計
  • 夜間運用の設計
  • 組織としての安全文化

です。

医療安全は、誰かを責めて終わる話ではありません。
現場で働く人ほど、「自分でも起こしうる」と引き寄せて考える必要があります。
そして病院側は、個人の注意に依存しない再発防止策を本気で作らなければならない。

今回の報道はとても重いものですが、同時に、全国の医療現場が自分事として見直すべき警鐘でもあります。
患者さんに安全な医療を届けるために必要なのは、完璧な人を求めることではなく、不完全な人間でも事故を起こしにくいシステムを作ることです。

その視点で見たとき、今回の件は単なる「確認不足」ではなく、バッグ製剤運用全体の弱点が表面化した事例として受け止めるべきだと、私は考えます。

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参考文献・参考情報

北海道文化放送/FNNプライムオンライン「薬剤の誤投与で90代男性が死亡…点滴で鎮痛剤『アセリオ』と強心薬『ドパミン』を取り違え」

HTB北海道ニュース「千歳市民病院 鎮痛剤と誤って強心薬投与された90代男性患者死亡 点滴バッグ取り違え」

STVニュース北海道「看護師が薬剤名を確認せず 強心薬を誤投与し患者死亡 ダブルチェックも機能せず」

PMDA 医療用医薬品情報「アセリオ静注液1000mgバッグ」

テルモ 医療用医薬品情報「アセリオ静注液1000mgバッグ」

ドパミン塩酸塩点滴静注液バッグ製剤情報

日本医療機能評価機構 医療安全情報/外観類似薬の取り違え関連資料

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記事監修者

上野いびきクリニック院長 菅谷和之

上野いびきクリニック院長 菅谷 和之

2004年に藤田医科大学医学部を卒業後、東邦大学医療センター大森病院で麻酔科医として勤務を開始。その後、全国の市民病院や自由診療クリニックで臨床経験を重ね、これまでに2万件以上の全身麻酔を担当。2020年には脊椎専門の「東京脊椎クリニック」を設立し、2025年からは上野いびきクリニックの院長として勤務

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